1929年生まれのシンセの祖先「トラウトニウム」は、なんとも艶めかしい音がする
サーモンじゃないよ!
「トラウトニウム」とは?
「トラウトニウム」は、1929年にベルリンで発明された電子楽器だ。
いまのシンセサイザーと同じように、フィルターを調整するつまみと、指で弾いて音をだす部分があるんだけどね。
その音をだす部分というのが、鍵盤ではなく横向きに張ってある細長い金属板とワイヤーになっているのが特徴的なのだ。
今でいえば、オタマトーンとかに使われている「リボンコントローラ」というやつだ。
明和電機 オタマトーン (オタマトーンカラーズ) オタマかわいいよオタマ |
鍵盤のように音の高さが定まっていないってことは、指をゆらしてヴィブラートをかけたり、音の高さをずらすことできるってことだ。
ワイヤーを押し続けていれば音は伸び続けるし、ワイヤーを押し込む圧力によって音の強さも変えられる。
つまり、指先ひとつだけでいくらでも表現ができるという、すごく人間によりそった電子楽器なのだ!
たぶんそこが、この楽器の音に現れる「エロさ」なんだと思うんだけど。
わたしがエロいだけか。
トラウトニウム演奏の第一人者、オスカー・ザラ
トラウトニウムについて話すうえではずせないのが、オスカー・ザラ (Oskar Sala, 1910-2002) という人物だ。
開発を最初に行ったのは、フリードリヒ・トラウトヴァイン (Friedrich Trautwein, 1888-1956) という人なのだけど、ザラはこれにすぐ加わり、即興演奏を行ったり映画音楽を手がけたりして、この楽器の名を知らしめたのである。
現在CDに残っている演奏の音源はほとんどがザラによるもので、他のトラウトニウム奏者がほとんどいないのはもったいないよなぁ…
ザラの作品・演奏は、下のCDがおすすめ。
ちょっと古めかしい、SFの効果音みたいな音がクセになる!
あとは、ヒンデミットの『トラウトニウムと弦楽合奏のためのコンツェルトシュテュック』という作品も素敵だ。
Hindemith: Konzertstück für Trautonium und Streicher (1931)
トラウトニウムの映画での活躍
ザラは、多くの映画のための音楽作りにも携わったそうだが、そのなかでも、ヒッチコックのサスペンス映画『鳥 (The Birds, 1963) 』は代表的だ。
実はこの映画には「音楽 (BGM) 」がない。
代わりに、鳥の鳴き声やノイズなどの効果音を、映画の全編にわたってトラウトニウムで作り出したという。担当はもちろんザラ。
鳥の声を電子楽器で作るというヒッチコックのアイディアもすごいし、トラウトニウムの可能性も、それを成し遂げちゃうザラもすごいわ!
わたしは怖くて観れていないけどな!ブルブル
Oskar Sala ▪ The Birds ▪ Semiconductor-Trautonium ▪ TV Report 2014
余談1:テルミン
電子楽器といったら、有名なのはテルミンかな?
これはトラウトニウムより10年前に発明されたもので、世界初の電子楽器でもある。
ある雑誌の付録だったときもあったし、のだめカンタービレにも出ていたね。
この楽器も、人間の「わざ」が見られて好き。
プロのテルミニストの演奏を見たことがあるけど、手の「つかむ」「波打つ」「震わせる」などの動作が直接音になるさまは本当に魔法みたいで、ずっと見ていられる気分だったよ!
余談2:オンド・マルトノ
トラウトニウムと同い年の、フランスで発明されたオンド・マルトノも面白い楽器だ。
メシアンとかミュライユとか、いろんな作曲家が作品を残しているからか、現代でもパリ音楽院に「オンド・マルトノ科」があったりして、より近しい存在と言えると思う。
この楽器については、また別の機会にまとめてお話したいと思うよ。
Jolivet: Concerto pour Ondes Martenot
ジョリヴェ『オンド・マルトノ協奏曲』
8分半くらいからの爆発的なクライマックスが激アツである。
以上余談でした。
トラウトニウム、もっと知られていいぞ。